巴里に死す (ネタバレ注意)

 「巴里に死す」

 クラシカルで素敵なタイトルですね。1943年の芹沢光治良の作品なので、当時、日本からパリに行くとなると船だったわけで、大変な渡航をしたわけです。そんな遠い異国の地で、しかも、パリという世界の中心の街で、日本人の若き婦人が結核という病で夫と幼子を残して亡くなるというお話です。

 語り部の小説家という人の序章があって、本編ではヒロインの伸子(シンコ)の手記となります。この手記は、幼い娘にあてた遺言のようなものでした。伸子は自分自身をいたらない未熟な妻であり若い母親として悩んでいたり、時として夫への不満の独白が続きます。

 ところが、終章で成人になった伸子の娘の万里子に手紙が届きます。生前の伸子を知るフランスの夫人からの手紙で、そこで語られる伸子は、夫人達からみれば、聖人だったという。晩年は修道女のような生活だったと。これは結構感動します。

 だから、この終章を読まないとこの小説は面白くないのです。やっぱり、最後まで読んでみるものですね。

 人間って、いろいろ悩んで、卑小だったりするわけですが、それだからこそ、偉大なのかもしれないなと思わせる内容でした。

 富豪の娘の伸子と大学教授の夫、パリ留学と、舞台は上流階級、悲劇のヒロインを描いているのも、当時の読者から支持された理由だったかなという気もします。

 トーマスマンの「魔の山」を久しぶりに思い出しました。この舞台のスイスの結核療養所は、「巴里に死す」のヒロインが入院するところと同じなんですね。いわゆる転地療養というものですね。今なら、良い薬があって不治の病ではないのでしょうけど、当時は、悲劇を生み出す病だったのですね。






 昨日、花粉用メガネを買いました。スカッシースマート、980円でした。マスクにこのメガネ、かなりあやしいやつですw。昔のタイプに比べて、だいぶコンパクトになって使いやすくはなっていますね。80%くらいの花粉を遮断できるらしいですが、どうなんだろう。マスクと同じで、ないよりはましか。
スカッシースマート
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ハーモニー

 伊藤計劃「ハーモニー」を読みました。
 長編3作品の最後の作品です。
 「虐殺器官」のロジックが、わたしには難しかったのですが、でも、この作家の作品を読んでみたいという気持ちは変わりません。そして、「ハーモニー」もやっぱり難しかった--;

 ストーリーそのものは、複雑なものがないので読みにくいということはないのですが、問題は小説の中で展開されるロジックや死への感情というようなものは、息がつまるような切迫したものを感じました。作家が、長期の闘病の末、この作品の数ヶ月後に亡くなっているということから、そう思うのかもしれません。

 今年の芥川賞受賞の円城塔が、未刊の遺作となった「屍者の帝国」を完成させるというニュースもみられます。この円城塔という作家、もう一人の受賞作家の田中慎弥と好対照で、両方とも作品は読んでないですが、円城という作家、よほど難しいこと書いてるのだろうなとか思っていましたが、その人が、伊藤計劃の未刊の遺作を完成させるという、、、やっぱり、伊藤計劃作品も難しいのだろうなあ。

 精神的には、しんどいのだけど、でも、やっぱり、面白いんです。

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砂の狩人

 大沢在昌「砂の狩人」です。
 「北の狩人」「砂の狩人」「黒の狩人」と、3作品があります。
 わたし的には、今回読んだ「砂の狩人」がベストかな。とはいえ、3作ともに面白いです。
 
 やくざの親分の子弟をねらった連続殺人、キャリアの婦人警官、かって連続殺人犯の未成年を射殺し、退職した元刑事、そして、一見さえない佐江刑事。不可思議な連続殺人はいったい誰なのか?

 大沢在昌の小説に登場する人物の中に、同性愛者が多いのですが、今回も若いふたりが登場します。このあたりも、物語に独特の彩りを与えていますね。特に、今回は印象的な表現になっていて、しびれました。


 同時にその若者には独特の匂いがあった。新宿で長年警官をやってきた佐江には、それは見まがいようのない匂いだった。不安と期待、倦怠の中にのぞく媚には、蹂躙されることへの恐怖とそこから生まれる倒錯した快楽への飢えがある。男娼の匂い。


 ちょっと長い引用はルール違反だけど、こんな感じの描写。

 さて、次は何を読もうかなあ。
 読書って、やっぱり楽しい。

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はじまらないティータイム

 原田ひ香「はじまらないティータイム」です。

 いまいちよくわからない物語でしたが、女ってやっかいな生き物なんだなという感じ。おせっかいなおばさん(お婆さんかな)が出てくるのは、「東京ロンダリング」と同じ。こういうおばさん(お婆さん)は、こまったもんだよなあということなんですが、すこしだけ共感できるようにも描かれているあたりは作家の良いところなのかもしれない。

 で、さらに、25歳、30歳、35歳の3人の女性が登場。結婚しても子供が生まれない30代の女ふたりと不倫で計画妊娠して妻の座を射止める20代の女。なんかやりきれないお話でした。「東京ロンダリング」と同様、世間的に普通じゃないかもしれない結婚しても子供のいない女と普通に見えても、普通じゃない女よりもさらにおかしい女、この作家らしいお話なのかなと思った。

 でも、男だって、会社では、足のひっぱりあいだし、ねたみやいやがらせやいがみあいがいっぱい。

 こういう小説を読んだ後は、ハードボイルドなんかで、すっきりしたいw

 ハードボイルドは、ねちねちしてないのがいいです。何か問題があると、暴力で解決w
 そういえば、「はじまらないティータイム」最後は、女どうしで殴り合いしたらみたいな結末だった。


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東京ロンダリング

 原田ひ香「東京ロンダリング」です。
 2010年の文芸誌「すばる」に掲載された小説なので、純文学なんだろうと思います。
あざとさがない、テーマは決して明るいもではないのですが、さわやかな感じがしました。
そのあたりが、純文学たるゆえんなのかなとも思いました。

 ご本人の肖像写真が載っているのですが、1970年生まれの清楚な美人という感じですね。

 淡いピンクの本の紐(スピンというらしいです)がついていて、こだわりを感じます。
 
 ロンダリング、マネー・ロンダリングは大沢在昌の小説にもたびたび出てきて、資金洗浄ということですが、この小説のロンダリングは、住宅などで死亡事故などがあると、借り手がなくなるため、一旦専門の会社に依頼して、住んでもらうことで前歴をクリアすることをいいます。
 この物語の主人公りさ子は、そんなロンダリングを仕事としてる女性。離婚し、住むところのあてもなく、生きる目的も失い、困窮していたところを、この仕事を引き受けることになる。そして、いろいろな人との出会いのなかから、りさ子は自分のすすむ道を見つけてゆく。

 舞台設定が不動産ロンダリングというところがこの小説を面白くしていますね。



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檻の中の少女

 一田和樹「檻の中の少女」です。

 ネット犯罪にとても詳しい作家で、このあたりを読んでいても面白かったし、恐がらせてくれました。女子高生の描写も巧みで、主人公のサイバー・セキュリティ・コンサルタントの君島は、新しいハードボイルドのキャラクターという感じがします。作者の経歴がIT関係の経営者だったということからしても、ネット犯罪の知識やその裏側の描き方が圧倒的なリアリティがあって、とても興味深く読みました。

 ミステリーとかハードボイルドというジャンルの小説だと思います。エピローグは、ねたばれ的展開なので、書けませんが、それまでの流れからはちょっと異質な展開をみせていて、どうなんだろう。でも、これ書かなきゃ作者は納得しないでしょうけど。いずれにしても、最後まで一気に読ませる小説でした。

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 おとといから、花粉が厳しいですね。アレロックとリボスチンは去年と同じですが、今年は新兵器ナゾネックス(噴霧式アレルギー性鼻炎治療薬)使ってみました。調子がいいみたいです。

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女神のタクト

 塩田武士「女神のタクト」です。
 オーケストラの舞台裏なんかもあって、音楽好きには興味のわく題材の小説です。
 「のだめ」よりも、よりリアルな日本のオーケストラ団体を描いているように思いました。
 人生ドラマを描いていて、ハートフルな作家ですね。
 第5回小説現代長編新人賞を「盤上のアルファ」で受賞した作家のようです。こちらは、プロ棋士の物語のようで、こちらも読みたくなりました。

 わたし、音楽小説と音楽映画が大好きです。中山可穂の「ケッヘル」なんか最高です。映画で最初にはまったのが、「アマデウス」だったと思います。あんまりクラシックファンでもないのですが、これは面白かった。渋谷の映画館で見たのですが、最初の雪のシーンに流れる、交響曲第25番ト短調第1楽章、感動的でしたね。




 「女神のタクト」ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番が物語の中で重要な曲となっているのですが、どんな曲かなと思い、聴いてみました。小説の中でもでてきますが、かなりの難曲らしいです。
 ネットで調べていたら、映画「シャイン」で演奏されている曲だったんですね。この映画も感動的でした。


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